出向に関連する法律や、出向を社員に言い渡す際の注意点を解説

2023年09月21日
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出向に関連する法律や、出向を社員に言い渡す際の注意点を解説

企業が従業員に出向を命じる際には、労働契約法や労働基準法のルールに注意しなければいけません。

また、出向先との間で締結する出向契約書の内容も、適切かどうか確認する必要があります。

本コラムでは、従業員の出向について、関連する法律や契約に関する基礎知識、従業員に出向を命じる際の注意点などを、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスの弁護士が解説します。

1、従業員の出向に関連する法律・契約

従業員の出向については、労働契約法や労働基準法において関連規定が設けられています。また、出向先の企業と締結する出向契約書には、出向に関する条件を適切に定めることが大切です。

  1. (1)労働契約法|労働条件の不利益変更は原則禁止・濫用的な出向命令は無効

    労働契約法第8条では、労働者と使用者がその合意により、労働契約の内容である労働条件を変更できる旨を定めています。

    この規定の反対の解釈として、労働者の同意がない限りは、原則として労働条件を不利益に変更することはできないと解されています(例外として、就業規則による労働条件の不利益変更につき同法第9条、第10条)。
    したがって、出向に伴い賃金の減少など出向労働者に不利益な条件変更を行う場合には、労働者の同意を得なければなりません。
    労働者の同意を得ずに行われた、出向前後の労働条件の一方的な不利益変更は無効となります

    また、労働契約法第14条では、使用者の出向命令権を制限する規定が設けられています。
    労働契約または就業規則によって出向命令が可能とされる場合でも、当該出向命令が権利濫用にあたる場合には無効となります。
    なお、出向命令が権利濫用にあたるかどうかは、その必要性や対象労働者の選定に係る事情やその他の事情に照らして、総合的に判断されます。

  2. (2)労働基準法|労働条件の明示が必要

    雇い入れ時と同様に、出向後の労働条件についても、労働者に対して明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項)。

    とくに以下の事項については、書面による明示が義務付けられているのです(労働基準法施行規則第5条第1項)

    1. ① 労働契約の期間に関する事項
    2. ② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
    3. ③ 就業の場所・従事すべき業務に関する事項
    4. ④ 始業・終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間・休日・休暇、就業時転換に関する事項
    5. ⑤ 賃金の決定・計算・支払方法、締切り・支払時期、昇給に関する事項
    6. ⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    7. ⑦ 退職手当に関する事項
    8. ⑧ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、最低賃金などに関する事項
    9. ⑨ 労働者に負担させるべき食費・作業用品その他に関する事項
    10. ⑩ 安全・衛生に関する事項
    11. ⑪ 職業訓練に関する事項
    12. ⑫ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
    13. ⑬ 表彰・制裁に関する事項
    14. ⑭ 休職に関する事項
    ※⑦~⑭については、使用者が定めをする場合に限る


    出向を命令する際には、出向前後で変更される労働条件と維持される労働条件の両方について、念のため、書面で再度明示しましょう。
    なお、労働者が希望する場合には、ファクシミリや電子メールなどによる明示も認められています(労働基準法施行規則第5条第4項)。

  3. (3)出向契約に定めるべき事項

    出向の内容については、出向先企業(出向先法人)との間で認識を共有して合意内容を明確化するため、必ず出向契約書を締結しましょう

    出向契約書で定めるべき主な事項としては、以下のようなものがあります。

    1. ① 出向の対象となる従業員(氏名・入社年月日など)
    2. ② 出向の種類(在籍出向である旨)
    3. ③ 出向先における業務内容
    4. ④ 出向先企業の出向元企業に対する報告
    5. ⑤ 出向期間
    6. ⑥ 労働者の賃金額・賃金の支払方法
    7. ⑦ 労働者に適用される労働条件や服務規律
    8. ⑧ 社会保険・労災保険の取り扱い
    9. ⑨ 秘密保持義務
    10. ⑩ 合意管轄条項


2、出向の種類・人事異動や左遷との違い

出向には、「在籍出向」と「転籍出向」の二種類があります。
単に「出向」と言う場合は、在籍出向を意味するのが一般的です。

また、出向は「人事異動」や「左遷」とは異なるという点にも注意してください

  1. (1)在籍出向と転籍出向の違い

    「在籍出向」とは、労働者が出向元企業との労働契約を維持したまま、出向先企業に赴いて働くことをいいます。

    これに対して、「転籍出向」とは、労働者と出向元企業の間の労働契約を終了させて、新たに労働者が出向先企業との間で労働契約を締結することをいいます。
    転籍出向は単に「転籍」と呼ばれることも多いです。

    在籍出向の場合は、後述するように、労働契約または就業規則の根拠があれば、労働者の同意がなくても出向を命じることができることがあります。
    その一方で、転籍出向については、労働契約の相手方が変わるという重大な事態が生じるため、労働者の同意が必須と解されているのです

  2. (2)出向と人事異動・左遷の違い

    出向の場合、労働者は別の企業で働くことになります。

    これに対して「人事異動」の場合には、働く企業は変わらず、別の部署や業務へ配置転換されるに過ぎません。
    また、人事異動のなかでも、いわゆる「出世コース」から外れる場合や都心部から地方部に転勤する場合などについては、俗に「左遷」と呼ばれることがあります。

3、従業員に出向を命じる際の注意点

以下では、会社が従業員に対して出向を命じる際に、とくに注意すべき点を解説します。

  1. (1)従業員の同意がない場合は、労働契約または就業規則の根拠が必要

    従業員に対して出向(在籍出向)を命じる際には、以下のいずれかに該当することが必要です。

    1. ① 従業員の同意を得ている
    2. ② 労働契約または就業規則において、出向命令に関する根拠規定がある


    拒否する従業員を出向させるには、労働契約または就業規則における出向命令の根拠規定が必要となります。
    これらの根拠規定がある場合には、出向の都度の個別同意はなくとも、事前の包括的同意があったとされます。
    もし出向命令の根拠規定がなければ、従業員を説得して同意を得なければなりません。

    このような場合、拒否する従業員を無理やり出向させるのは得策とは言い難いので、他の従業員に出向を提案することも検討すべきでしょう

  2. (2)権利濫用にあたる出向命令は行わない

    出向命令が権利濫用にあたる場合、その命令は無効となります(労働契約法第14条)。
    たとえば以下のような場合には、出向命令が無効となる可能性が高くなるのです

    • 人事権を持つ管理職が、個人的に気に入らない従業員に対して出向を命じる場合
      →出向命令の必要性がないため、権利濫用として無効となる可能性が高くなります。

    • 腰痛の持病を持つ従業員に対して、長時間の立ち作業を連日強いられる会社への出向を命じる場合
      →出向させる労働者の選定が不適切・不合理であるため、権利濫用として無効となる可能性が高くなります。


  3. (3)出向契約書のチェックを適切に行う

    従業員の出向条件については、出向契約書において明示的に合意すべきです。

    とくに従業員に対する賃金の支払いについては、出向先と出向元のどちらが負担するのかがよく問題となります。
    疑義のないように、出向契約書において明確なルールを定めておくことが大切です

    そのほかにも、出向契約書において自社に不利益な条件が定められている場合には、出向先企業に対して修正を求めるべきです。
    弁護士に出向契約書のレビューを依頼すれば、契約書に含まれているリスクや懸念点を指摘してもらえるほか、修正案などのアドバイスも得られます。

4、出向に関するトラブルを防ぐには弁護士にご相談を

従業員を出向させる際には、労働契約法や労働基準法のルールを順守しなければいけません。
また、出向先企業との間で締結する出向契約書について、内容のチェックをきちんと行うことも大切です。

弁護士に依頼すれば、出向に関連する法律や契約についてアドバイスを得たりチェックしたりしてもらうことができるため、出向者や出向先企業とのトラブルを予防しやすくなります。

トラブルを未然に防ぐためには、従業員の出向について不安のある方や法律的な問題を確認したい方は、事前に弁護士へご相談ください

5、まとめ

在籍出向の場合には、労働契約や就業規則に定めがあれば、従業員の同意がなくても出向を命じることはできます。
ただし、その際には、労働契約法や労働基準法の規定を順守しなければいけません。
また、出向先企業と締結する出向契約書についても、内容に問題がないかどうかチェックする必要があるのです。

出向に関する法的な対応を適切に行い、従業員や出向先企業とのトラブルを防ぐためには、弁護士のチェックやアドバイスを受けることが最善です。
ベリーベスト法律事務所では、人事や労務管理に関する企業からのご相談を承っております。
従業員の出向に関するご相談についても、経験豊富な弁護士が親身になってアドバイスいたします。
従業員の出向についてトラブルを未然に防ぎたい企業は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください

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