SNSでDMを送っていたらストーカー扱いされた場合に、取るべき対応
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警視庁では、毎年のストーカー被害に関する情報を「ストーカー行為等相談受理状況」として公開しています。令和4年中のストーカー被害の相談件数は1207件で前年比9.5%の増加、検挙数は166件で前年比62.7%の大幅な増加となりました。
この統計では、ストーカーの行為形態別の件数も公開していますが、令和3年から令和4年にかけて急増した形態のひとつが「無言・連続電話等」です。令和3年中は279件でしたが、令和4年には356件が確認され、前年比で27.5%の増加となったのです。この形態には、無言電話や連続した電話だけでなく、SNSの「DM」によるメッセージ送信も含まれています。
もし、意中の相手や元交際相手などにDMでメッセージを送ることでストーカー扱いされてしまった場合には、犯罪に問われて処罰されることを避けるため、速やかに適切な対応を行う必要があります。本コラムでは、SNSでDMを送っていたらストーカー扱いされてしまった場合に取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスの弁護士が解説します。
1、「ストーカー」にあたる行為とは?
一般的には、「ストーカー」とは特定の人の後をつけまわしたりしつこくつきまとったりする人のことを指します。
しかし、法律的には、ストーカーやストーキング行為はより広い範囲を指します。
以下では、ストーカーやストーキング行為の法律的な定義について解説します。
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(1)つきまとい等または位置情報無承諾取得等
ストーカーに関する法的な規制を定めているのは「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」です。
この法律では、恋愛感情、またはその感情が満たされなかったことに対する怨恨(えんこん)の感情を充足させる目的で以下の八つの行為を行うことが、「つきまとい等」と定義されています。- ① つきまとい、待ち伏せ、現に所在する場所・住居・勤務先・学校・その他通常所在する場所の付近における見張り、うろつき、住居などへ押しかける行為
- ② 監視していると告げる行為
- ③ 面会・交際などの要求
- ④ 乱暴な言動
- ⑤ 無言電話、連続した電話、文書、ファクシミリ、メール・SNSのメッセージ(電子メールの送信等)など
- ⑥ 汚物などの送付
- ⑦ 名誉を傷つける
- ⑧ 性的羞恥心の侵害
また、「位置情報無承諾取得等」とは以下のような行為を指します。
- 相手方の承諾を得ないでGPS機器等により位置情報を取得する行為
- 相手方の承諾を得ないで、相手方の所持する物にGPS機器等を取り付けるなどの行為
これらの「つきまとい等」と「位置情報無承諾取得等」にあたる行為は、一般的にも「ストーキング行為」と呼ばれるものばかりだといえるでしょう。
ただし、ストーカー規制法では、一度これらの行為があっただけでストーカー行為が成立するとはされていません。 -
(2)つきまとい等などを繰り返すとストーカー行為になる
ストーカー規制法における「ストーカー行為」とは、同一の者に対して、つきまとい等や位置情報無承諾取得等にあたる行為を反復して行うことだと定義されています。
つまり、一度限りではなく、つきまとい等などにあたる行為を何度も繰り返した場合に「ストーカー行為」となるのです。
ただし、つきまとい等のうち、先に挙げた①~④と、⑤のうち電子メールの送信等にかかる部分に限っては、「身体の安全、住居などの平穏もしくは名誉が害され、または自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」によって行われる場合に限って、ストーカー行為となります。
2、SNSのDMでメッセージを送ることはストーカー行為にあたるのか?
以下では、SNSのDM(ダイレクトメッセージ)機能を使って、意中の相手に交際を申し込んだり元交際相手に復縁を求めたりするためのメッセージを送る行為がストーカー行為にあたるのかどうかについて、解説します。
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(1)つきまとい等の「電子メールの送信等」にあたる可能性が高い
恋愛感情やこれが満たされず恨みが積もったことが原因で、拒絶されたにもかかわらず何度もSNSのDM機能でメッセージを送信する行為は、つきまとい等のうち「電子メールの送信等」にあたる可能性が高いでしょう。
とくに「復縁してくれないなら無事では済まさない」といった相手に危害を加えるような内容や、「話を聞いてくれないなら会社に行く」など平穏な生活を脅かすような内容のメッセージを送った場合には、つきまとい等と判断される危険性は非常に高くなります。
一方で、たとえば好意を寄せている同僚に業務上必要なメッセージを送信したり、元交際相手に交際中の借金を返すための約束を取り付ける内容のメッセージを送ったりしたといった場合には、つきまとい等にあたらない可能性があります。
ただし、このような内容のメッセージであっても、相手から拒絶されているのに何度も送信したり、拒否設定をしてもアカウントを変えてしつこく送信したりした場合には、相手に恐怖を与えてしまう可能性が高いため、つきまとい等と評価されるおそれがあります。 -
(2)いわゆる「ネットストーカー」として扱われる可能性もある
警視庁が公開している統計によると、ストーカー被害の相談者と行為者との関係でもっとも多いのは交際相手や元交際相手であり、その割合は49.3%を占めています。
ほかにも、知人関係・職場関係・配偶者や元配偶者など、顔見知りの間柄においてストーカー被害が発生しているという実情があります。
しかし、割合は9.0%と低いものの、相談者と行為者との間に面識がないケースも存在しているのです。
まったく面識がない間柄でも、SNS上のつながりから恋愛感情を抱いてしまうということはあります。
そして、恋愛感情を抱いた相手に対して、DM機能を使って監視しているかのようなメッセージを送ったり、しつこく交際を迫ったりしていたら、いわゆる「ネットストーカー」として扱われてしまうおそれがあるのです。
通常のストーカーと同じように、ネットストーカーも、ストーカー規制法による規制対象となります。
「面識がないから」「ネット上だけの行為だから」といって、規制や処罰を受けずに済まされるわけではないのです。
3、ストーカー事件の加害者として疑われるとどうなるのか?
以下では、被害者からの相談や申告によってストーカー加害者として警察に疑われてしまった場合に、その後はどうなるのかについて解説します。
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(1)警察に呼び出されて警告を受ける
被害者が事件化を望まないものの、加害者には警察から注意してほしいと望んだ場合には、警察署長名義で「警告」が行われることになります。
具体的には、警察署への呼び出しまたは電話によって、事実を確認されたうえで、つきまとい等などにあたる行為をはたらかないよう厳重に注意されることになるのです。
つきまとい等などにあたる行為をはたらいている人のなかには「ストーカー規制法に抵触する行為をしている」という自覚がない人も少なくありません。
そのため、いきなり検挙するのではなく、まずは「法律の定めに反する行為である」と自覚させる目的で、警告が行われているのです。
警告は処罰を目的にした措置ではないため、この段階で刑罰を科せられることはありません。 -
(2)公安委員会からの禁止命令を受ける
加害者がさらに反復してつきまとい等やストーカー行為をはたらくおそれがある場合には、公安委員会からの「禁止命令」という命令が下される可能性があります。
禁止命令が下される際には加害者の意見を聴取する「聴聞」という場が設けられますが、事情があっても連続してDMでメッセージを送信した事実があるなら、禁止命令は避けることは難しいでしょう。
禁止命令は法的に強い効力をもつ措置であり、1年間は命令の対象となった行為が禁止されます。
さらに、禁止命令に違反してストーカー行為をはたらいた場合には、2年以下の懲役または200万円以下の罰金という罰則が科されることになるのです。
なお、禁止命令はつきまとい等などのうち特定の行為について禁止するものですが、禁止命令を受けたうえでほかのつきまとい等を繰り返した場合にも、同様の処罰を受けます。
また、「禁止命令を受けたうえでつきまとい等などをはたらいたものの、反復することなくストーカー行為にあたらなかった」という場合にも、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があるのです。 -
(3)ストーカー事件の容疑者として逮捕される
被害者が被害を申告し、刑事処分を望んだ場合は、警察が捜査したうえでストーカー事件の容疑者として逮捕される可能性があります。
ストーカー事件の容疑者として逮捕されると、逮捕・勾留によって最大23日間の身柄拘束を受けて社会から隔離されるため、会社や学校などから不利益な処分を受ける可能性があります。
また、警察に逮捕されると、共犯者が逃亡する危険があるなどの場合を除いて、原則としてその情報が報道機関へと提供されるため、ニュースや新聞で実名報道されてしまう可能性もあるのです。 -
(4)刑事裁判を経て刑罰が科せられる
ストーカー事件の被告人として検察官に起訴されると、刑事裁判が開かれます。
刑事裁判では、裁判官が証拠をもとにストーカー規制法に違反する行為があったのかを審理したうえで、罪の有無や量刑が判断されます。
つきまとい等などを繰り返したという事実が証明されてしまうと、ストーカー規制法違反として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることになります(禁止命令に違反した場合は上記のとおり罪が重くなります)。
4、DM送信などでストーカーの容疑をかけられたら弁護士に相談を
過去に発生した悲惨な事件を顧みると、ストーカー行為が厳しく処罰されるのは当然だといえます。
令和5年7月には、練馬区内のコンビニエンスストアで男が女性を殺害しようと胸や腹などを包丁で刺して逮捕される事件が起きました。
男は「相手にされず、バカにされたと思いカッとなって刺した」と供述するなど、恋愛感情のもつれが背景にあったようです。
このような事件に発展する前に警察が警告や検挙といった措置を講じる背景には、被害者を守るためという目的が存在するのと同時に、行為者に自制を促して取り返しのつかない罪を犯す事態を防ぐといった目的も存在すると考えられます。
とはいえ、もし自分がSNSのDMを送信したという理由でストーカーの容疑をかけられてしまった場合には、「これからどうなってしまうのか?」などと不安を抱いてしまうものでしょう。
もしストーカーの容疑をかけられてしまった場合には、逮捕や厳しい刑罰を回避するため、速やかに弁護士に相談してください。
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(1)被害者との示談交渉による解決が期待できる
ストーカー事件を穏便に解決するひとつの方法が、被害者との示談交渉です。
被害者に対し、つきまとい等などやストーカー行為によって迷惑や恐怖を与えてしまったことを真摯(しんし)に謝罪したうえで、実際に発生した損害や精神的苦痛に対する慰謝料を含めた賠償金を支払って、被害届や刑事告訴の取り下げを請いましょう。
とくに悪質で緊急性の高い場合には被害者が「これ以上の捜査は望まない」という意向を示しても強制的に捜査が進められることもありますが、基本的にはストーカーに関する措置は被害者の意向が尊重されるため、緊急性が低ければ示談によって解決できる可能性が高いといえます。
ただし、ストーカー容疑をかけられている本人が被害者と示談交渉を進めるべきではありません。
とくにDM送信などの行為が問題になっている場合は、示談を申し入れるための連絡を取ることさえも困難になり、何度も連絡していると被害者が「脅されている」と誤解して事態が悪化してしまう危険があるためです。
安全に示談交渉を進めるには、公平な第三者である弁護士に対応を任せることが最善です。 -
(2)逮捕や刑罰を避けるための弁護活動が期待できる
被害者の意向によっては、警察がただちにストーカー事件として被害届を受理し、捜査が始まる危険があります。
全国の警察は、悲惨な事件につながる可能性の高いストーカー事件についてとくに迅速な捜査を進める体制を取っているため、驚くほど早く逮捕に踏み切られてしまう可能性もあります。
逮捕や厳しい刑罰を避けたいと望むなら、やはり、被害者との示談交渉が大切です。
また、危害などを加える意思がないことの主張や被害者に恐怖を与えてしまったことに対する反省や、「今後は二度と連絡や接触をもたない」という誓約などを示す必要があるため、この場合にも個人で対応することは避けたほうがよいといえます。
ストーカーとして捜査の対象になってしまったら、できるだけ速やかに、弁護士に依頼してください。
5、まとめ
恋愛感情やこれが成就しないことに対する怨恨の感情から、特定の相手に対してSNSのDM機能などで何度もメッセージを送信する行為は、法律的には「つきまとい等」にあたります。
つきまとい等にあたる行為を反復して繰り返すと「ストーカー行為」になり、逮捕や刑罰の危険が増すので、容疑をかけられてしまった場合は早急に対応することが大切です。
ストーカーの容疑をかけられてしまって、「逮捕や刑罰を避けたい」「警察からの呼び出しを受けたがどのように対応すればよいのかわからない」などのお悩みを抱いている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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