遺言書が後から出てきたら遺産分割協議はやり直し? 対応方法を解説
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親が亡くなったため、相続人全員で遺産分割協議を行い、相続手続きが完了した後に被相続人の遺言書が見つかることもあります。遺言書の存在を誰にも伝えていなかったりすると、亡くなってしばらくしてから遺言書が見つかるということも決して珍しいことではありません。
このような場合、すでに完了している遺産分割協議にはどのような影響が生じるのでしょうか。また、すでに遺産を処分してしまったという場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。
今回は、遺言書が後から出てきた場合の遺産分割協議の効力とケース別の対応方法について、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも遺言書の効力とは
そもそも遺言書にはどのような効力があるのでしょうか。以下では、遺言書の基本的な効力について説明します。
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(1)遺言書がある場合、原則遺言書が優先される
遺言書と遺産分割協議では、原則として遺言書が優先されます。そのため、遺言書がある場合には、遺言書に従って遺産を分割し、遺言書がない場合に相続人による遺産分割協議を行うことになります。
遺産相続の対象となる相続財産は、本来、被相続人が所有していたものになります。生前であれば本人が自由に処分できたものになりますので、本人が亡くなった後もその意思を尊重すべきであるとの考えから、相続人の法定相続分よりも遺言書が優先されています。 -
(2)遺言書の効力に期限はない
遺言書が後から出てきた場合、数年や数十年後ということもありますので、そもそもいつまで遺言書が有効なのかが問題となります。
結論からいえば、遺言書には期限はありませんので、被相続人が亡くなってから数十年経過していたとしても、遺言としての効力には影響はありません。
ただし、遺言書が効力を持つには、法的に定められた様式であることが必要になりますので、遺言書が後から出てきたという場合は、2章で説明するような遺言書の有効性を確認することが大切です。
2、遺言書が後から出てきたときに確認すべきこと
遺言書が後から出てきたという場合には、その遺言書が法定の様式を満たすものであるかを確認しなければなりません。その際に確認すべきポイントとしては、主に以下の3つが挙げられます。
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(1)作成した人に遺言能力があったか
法的に有効な遺言書を作成するには、遺言書を作成した人に遺言能力がなければなりません。
遺言能力とは、遺言内容を理解して、遺言の結果を弁識することができる意思能力をいいます。法律上、満15歳に達していれば意思能力があるとされており、年齢の上限は設けられていません。しかし、高齢になり判断能力が低下している状況だと、遺言能力がないと判断され、遺言書が無効になる可能性もあります。
そのため、以下のような観点から遺言者に遺言能力があったかどうかを判断します。- 精神上の障害の存否、内容、程度
- 年齢
- 遺言書作成前後の言動や状況
- 遺言書作成に至る経緯
- 遺言書の内容
- 遺言者と相続人との関係
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(2)遺言が偽造などされていないか
遺言書は、遺言者の意思に基づいて作成されたものでなければなりません。遺言書が第三者により偽造された場合は、遺言者の意思に基づく遺言書とはいえませんので遺言書は無効になります。
公正証書遺言であれば偽造のおそれはほとんどありませんが、自筆証書遺言だと第三者により偽造される可能性もあります。後から出てきた遺言書の筆跡が遺言者によるものでない疑いが生じたときは、遺言無効確認訴訟を提起して、遺言書の有効性を争っていくようにしましょう。 -
(3)法的に不備・不足がないか
遺言書は、法律上定められた方式や手続きに基づき作成しなければなりません。法定の方式や手続きに不備があると当該遺言書は無効になってしまいます。
たとえば、自筆証書遺言であれば、以下のようなケースが無効になる可能性があります。- 遺言書に日付の記載がない、または日付の記載があっても特定できない
- 遺言書(財産目録以外)がパソコンで作成されている
- 遺言書の内容が不明確
- 遺言書の訂正の仕方を間違えている
- 遺言書が複数の人と共同で作成されている
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3、【ケース別】遺言書が後から出てきたときの対応
遺言書が後から出てきた場合、相続人としてはどのような対応が必要になるのでしょうか。以下では、ケース別に遺言書が後から出てきたときの対応を説明します。
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(1)相続人全員の合意がある
遺言書が後から出てきた場合、原則として遺言書が優先しますので、遺産分割協議を白紙に戻して、遺言書に従って遺産を再分配しなければなりません。
しかし、相続人全員の合意がある場合には、例外的に、遺言書によらず当初に遺産分割協議を有効なものとして扱うことができます。そのため、まずは、相続人同士で話し合ってみるとよいでしょう。
ただし、以下のようなケースについては、相続人全員の合意があったとしても、当初の遺産分割協議を有効にできない可能性もありますので注意が必要です。① 遺言執行者が指定されているケース
遺言書により遺言執行者が指定されているケースでは、遺言書の内容とは異なる遺産の分配をするには、遺言執行者の同意を得る必要があります。そのため、相続人全員の合意があったとしても遺言執行者の同意がなければ、当初の遺産分割協議を有効にすることはできません。
② 相続人廃除があるケース
相続人廃除とは、虐待や重大な侮辱、著しい非行をした推定相続人の相続権を奪うことができる手続きです。
遺言書により相続人廃除がなされていた場合、遺言執行者が家庭裁判所に相続人廃除の申立てを行います。裁判の審判により相続人廃除が認められると、当該相続人の相続権は失われてしまいます。そのため、当初の遺産分割協議は、相続人でない人を参加させて成立させたことになりますので、相続人全員の合意があったとしても、有効なものとして扱うことはできません。
③ 第三者への遺贈があるケース
遺言書で遺産を相続人以外の第三者に遺贈するという記載がある場合、相続人の一存で第三者が遺贈を受ける権利を奪うことはできません。
このような場合、遺贈を受ける第三者が権利の放棄をしてくれない限りは、相続人全員の合意があったとしても、当初の遺産分割協議を有効にすることはできません。 -
(2)相続人全員から合意を得られない
後から出てきた遺言書の内容によっては、特定の相続人に有利な内容になっていることをあります。このような場合、自分に有利な内容の遺言書である相続人は、当初の遺産分割協議を有効なものとして扱う動機がありませんので、同意してくれない可能性が高いでしょう。
相続人全員の合意が得られない場合には、原則どおり遺言書の内容が優先しますので、遺言書の内容に従って、遺産の再分配を行わなければなりません。 -
(3)遺言書が意図的に隠されていた
遺言書が後から出てきた理由が相続人により意図的に隠されていたという場合には、相続欠格事由に該当します。
相続欠格事由に該当する行為をした相続人の相続権は、当然にはく奪されますので、遺産を相続することができなくなります。遺言書に従って遺産の再分配をする際には、当該相続人を除外して手続きを進める必要があります。 -
(4)遺産を処分してしまい遺言どおりに遺産分割できない
遺言書が後から出てきたのが遺産分割協議の成立から何十年も経過した後だと、すでに遺産に含まれていた財産が処分されていることもあります。
このような場合には、遺言どおりに遺産分割するのが困難ですので、遺産の価値を金銭換算するなど代替的な解決方法を検討していかなければなりません。
4、遺産分割でトラブルになったら弁護士への相談がおすすめ
遺産分割でトラブルが生じたときは、弁護士に相談するのがおすすめです。
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(1)法的に正当な遺産分割が可能
遺産分割の手続きでは、法定相続分での遺産の分配が基本となりますが、特別な事情がある場合には、特別受益の持ち戻しや寄与分を主張することで、遺産の配分を修正できる可能性があります。
このような修正は、遺産相続に関する知識や経験が不可欠となりますので、法的に正当な遺産分割を実現するには、遺産相続の実績がある弁護士のアドバイスやサポートが不可欠といえます。 -
(2)相続人同士で話し合う必要がない
遺産分割協議は、相続人による話し合いが必要になります。しかし、お互いの利害が対立すると言い争いなどが生じ、話し合いに参加すること自体にストレスを感じることも多いでしょう。
弁護士に依頼をすれば、弁護士が代理人として遺産分割協議に参加することができますので、遺産分割協議によるストレスはほとんどありません。また、弁護士が遺産分割協議に参加することで法的観点から妥当な分割案を提案できます。 -
(3)複雑な遺産分割もスムーズに進められる
遺言書が後から出てきたようなケースでは、遺言書の有効性や当初の遺産分割協議を維持するかどうかなど複雑な問題が生じることもあります。
このような問題が生じたときに自分だけでは対応が困難といえますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。弁護士であれば、複雑な遺産分割であっても適切に対処することができ、スムーズな解決が期待できます。
5、まとめ
遺言書がある場合、基本的には法定相続分による遺産の分配よりも遺言書が優先されます。そのため、すでに遺産分割協議を終え、遺産の分配が完了している場合でも、遺言書の内容に従って遺産の再分配をしなければなりません。
ただし、相続人全員の合意がある場合など一定の例外的なケースについては、後から出てきた遺言書によらず遺産分割を行うことが可能です。
後から出てきた遺言書の扱いにお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています