遺贈の放棄はできる? 遺贈を放棄する方法と注意点

2023年05月01日
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遺贈の放棄はできる? 遺贈を放棄する方法と注意点

裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に東京家庭裁判所に申し立てのあった、相続放棄の申述に関する事件数は、2万3317件でした。包括遺贈の放棄についても、これに含まれていますので、一定数の遺贈の放棄があったものと推測されます。

被相続人の遺言によって、遺贈を受けた場合でも「遠方の不動産をもらっても管理が大変」「負債まで背負うのは避けたい」など、さまざまな理由から遺贈の放棄を考える方もいるでしょう。遺贈の放棄をするにはどのような手続きが必要で、どのような点に注意すべきなのでしょうか。また、遺贈の放棄と相続放棄ではどのような違いがあるのでしょうか。

今回は、遺贈を放棄する方法とその注意点について、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスの弁護士が解説します。

1、遺贈の放棄とは? 相続放棄との違い

遺贈の放棄とはどのような制度なのでしょうか。また、遺贈の放棄と相続放棄ではどのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)遺贈の放棄とは?

    遺贈とは、遺贈者が遺言により、遺産の全部または一部を無償で譲渡することをいいます。

    生前に財産の処分を行うものが「生前贈与」ですが、遺贈は、被相続人(遺贈者)が死亡してから財産が移転しますので、財産の移転時期によって両者は区別されます。また、生前贈与は、契約であるため贈与者と受贈者の合意が必要ですが、遺贈は、遺言書による被相続人の一方的な意思表示で行われる点が異なります。

    さらに、「死因贈与」は、被相続人が死亡してから財産が移転するのは遺贈と同じですが、契約であるため贈与者と受贈者の合意が必要である点が遺贈と異なります。

    遺贈の放棄は、遺言により財産を譲り受けた受遺者がその財産を取得する権利を放棄することをいいます。「遺産をもらえるならメリットしかないのでは?」と思うかもしれません。しかし、遺贈にはメリットだけではなくデメリットもあります。そのため、以下のようなケースでは、遺贈の放棄が行われることがあります。

    1. ① 不要な遺産を引き継いだケース
      上述のとおり、生前贈与は、贈与者と受贈者との契約によって行われるのに対し、遺贈は、遺贈者による一方的な意思表示によって行われます。そのため、遺贈では、受遺者にとって不要な遺産が遺贈の対象になっていることもあります。たとえば、受遺者の自宅から遠方の不動産をもらっても利用や管理が困難になったり、売却が困難な不動産をもらえば管理費や維持費の負担だけが生じたりします。

      このような場合には、遺贈の放棄によって、遺産を手放すことができます。

    2. ② 他の相続人の遺留分を侵害しているケース
      遺贈によって譲り受けた財産が相続財産の大部分を占めているという場合には、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがあります。遺留分を侵害する遺言であっても有効ですが、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受けるおそれがあります。

      相続人との遺留分をめぐるトラブルに巻き込まれたくないという場合には、遺贈の放棄が利用されることがあります。

    3. ③ 遺贈によって債務を引き継ぐケース
      遺贈には、特定の財産を指定して行う「特定遺贈」と、財産を個別に指定せずに財産の全部または一定の割合を示して行う「包括遺贈」という2種類があります。包括遺贈の方法だと遺贈者に債務があった場合には、受遺者は遺贈者の債務も引き継いでしまいます。
      そのため、借金などの負担をしたくないという場合には、遺贈の放棄が利用されます。
  2. (2)遺贈の放棄と相続放棄との違い

    相続放棄とは、相続に関する一切の権利義務を放棄することができる手続きで、遺産を相続した法定相続人が行う手続きです。一方、遺贈の放棄は、遺言によって財産を譲り受けた人が行うものです。遺贈の相手は法定相続人に限りませんので、遺贈の放棄と相続放棄では、手続きの主体という面で異なります

    また、相続放棄と包括遺贈(財産の全部の場合)の放棄では、すべての遺産が放棄の対象になるという点で共通しますが、特定遺贈の放棄では、遺贈された財産のみ放棄しますので、特定遺贈の放棄と相続放棄では、効果の面でも違いがあります。

2、遺贈を放棄するには? 包括遺贈と特定遺贈

遺贈の放棄をする際には、包括遺贈と特定遺贈によって、放棄のやり方が異なってきます。以下では、包括遺贈と特定遺贈それぞれの、放棄の方法を説明します。

  1. (1)包括遺贈の放棄の方法

    包括遺贈とは「すべての遺産を○○に遺贈する」「遺産の2分の1を○○に遺贈する」など一定の割合を定めて遺贈する方法です。包括遺贈の受遺者は、法定相続人と同一の権利義務がありますので(民法990条)、プラスの財産だけではなくマイナスの財産についても受け取らなければなりません。

    このような包括遺贈を受けた方が遺贈の放棄をするためには、相続放棄と同様の手続きを行わなければなりません。したがって、包括遺贈の受遺者は、自己のために遺贈があることを知ったときから、3か月以内に遺贈の放棄の申述を行う必要があります。申述は家庭裁判所に対して行います。

  2. (2)特定遺贈の放棄の方法

    特定遺贈とは「預貯金○○万円を○○に遺贈する」「自宅の土地・建物を○○に遺贈する」など特定の遺産を指定して遺贈する方法です。特定遺贈の放棄は、包括遺贈のような面倒な手続きは必要なく、他の相続人または遺言執行者に対して、遺贈を放棄する旨の意思表示を行えば足ります。

    意思表示の方法については、特に法律上の定めはありませんので、口頭で行うこともできますが、後日トラブルになることを回避するためにも内容証明郵便を利用した書面による方法で行うのがおすすめです
    なお、特定遺贈の放棄には期限がありませんので、いつでも行うことができます。

3、遺贈を放棄する場合の注意点

遺贈の放棄をする場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)包括遺贈の放棄には期限がある

    遺贈の種類が特定遺贈ではなく包括遺贈であった場合には、遺贈の放棄に期限が設けられていますので注意が必要です。包括遺贈は、プラスの財産だけではなくマイナスの財産についても割合に応じて引き継ぐことになりますので、うっかりしていると多額の借金を引き継ぐおそれがあります。

    そのため、包括遺贈の受遺者で遺贈の放棄をお考えの方は、自己のために包括遺贈があることを知った日から3か月以内に、家庭裁判所で遺贈の放棄の申述を行いましょう。

  2. (2)遺贈の放棄後は撤回ができない

    一度遺贈の放棄をしてしまうと、遺贈の放棄の撤回は、原則として認められません(民法989条2項)。詐欺、強迫、錯誤などがあった場合には、遺贈の放棄の取り消しが認められる余地もありますが、それはあくまでも例外的なケースです。

    そのため、遺贈の放棄をする場合には、その後に撤回ができないことを念頭に置いて慎重に判断することが大切です。

  3. (3)遺贈を放棄しても相続分が放棄されるわけではない

    遺贈を受けた人が相続人である場合、遺贈の放棄をしたとしても、自己の相続分についてはそのままの状態となります。被相続人に多額の借金があるなどの理由で相続自体を希望しない場合には、遺贈の放棄ではなく、相続放棄によって対応するようにしましょう

  4. (4)遺贈の放棄は生前にはできない

    遺言者から遺言書の内容を事前に伝えられており、自己のために遺贈があることを知ったとしても、遺言者の生前に遺贈の放棄をすることはできません(民法986条1項)。遺贈の放棄をする場合には、必ず、遺言者の死後に必要な手続きを踏んで行うようにしましょう。

4、遺産相続に関する問題は弁護士に相談を

遺産相続に関する問題は、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)遺贈を受けるかどうかアドバイスをしてもらえる

    遺贈は遺産をもらえるというメリットがありますが、遺贈の対象となった遺産の性質によっては、必ずしも受遺者のメリットになるとは限りません。また、遺贈の方法が特定遺贈ではなく包括遺贈であった場合には、マイナスの財産も引き継ぐリスクがあります。
    そのため、遺言によって遺贈があったことを知った場合には、早めに弁護士に相談をして、遺贈によるリスクを把握することが大切です。

  2. (2)相続人とのやり取りを任せることができる

    遺贈を受けた場合、自動的に財産が自分のものになるとは限りません。包括遺贈でも、割合的包括遺贈の場合には遺産分割協議に参加する必要がありますし、特定遺贈であっても、不動産の遺贈を受けた場合には、原則として、他の相続人もしくは遺言執行者と共同で遺贈の登記申請を行わなければなりません。また、遺贈によって、相続人の遺留分を侵害した場合には、遺留分権者からの遺留分侵害額請求に対応しなければならない可能性があります。

    このように受遺者になると相続人とのやり取りが必要になりますが、個人で交渉をするのは精神的にも大きな負担となります。弁護士に依頼をすれば、相続人とのやり取りをすべて任せることができますので、精神的負担を大幅に軽減することができます。ひとりで手続きをするのが不安だという方は、早めに弁護士に相談することがおすすめです。

5、まとめ

遺言によって遺贈を受けた方は、遺贈の内容や状況によっては、遺贈の放棄も検討する必要があります。遺贈が特定遺贈ではなく包括遺贈であった場合、遺贈の放棄には、3か月という制限がありますので、遺贈を知った場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

遺贈や相続に関することでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています