フェイクニュースの拡散は犯罪?|問われる罪と科される刑罰

2024年04月22日
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フェイクニュースの拡散は犯罪?|問われる罪と科される刑罰

練馬区内の公立学校では、令和3年2月から児童や生徒がタブレットパソコンの利用を開始して、さまざまな学習に活用しています。学校以外でもスマートフォンやゲーム端末などからインターネットを利用する機会が増えており、練馬区では「情報を正しく活用していく力=情報リテラシー」を身につけることが大切だと呼びかけているところです。

誤った情報や不確かな情報が拡散されてしまうと、社会に混乱が生じます。いわゆる「フェイクニュース」を拡散させる行為は、場合によっては警察から捜査を受けることになり、犯罪として処罰されてしまう可能性もあるのです。

本コラムではフェイクニュースを拡散させた場合に問われる罪や刑罰、警察から連絡がきた場合の刑事手続きの流れや対処法について、ベリーベスト法律事務所 練馬オフィスの弁護士が解説します。

1、「フェイクニュース」とは?

まずは、「フェイクニュース」という言葉の意味や、実際の事例などを紹介します。

  1. (1)フェイクニュースの意味

    一般的に、メディア・ブログ・SNSなどで公開される、真実とは異なる内容の記事や情報のことを「フェイクニュース」と呼びます

    いたずらや興味本位で注目を集めたいと考えて発信するケースが目立ちますが、「特定の著名人や企業の信用をおとしめたい」「自分のサイトにアクセスを集めて広告収入を得たい」などの意図をもって発信される場合もあります。

  2. (2)実際に問題となったフェイクニュースの例

    フェイクニュースが真偽を確かめることなく広く拡散されてしまうと、社会に混乱が生じます。

    平成28年(2016年)には、大きな地震が発生した直後に「動物園からライオンが逃げた」という情報が、市街地を歩くライオンの画像とともにSNSで投稿されました。
    実際には地震の影響でライオンが逃げ出してしまったという事実はなく、添付された画像も海外映画の撮影中の一コマでしたが、事実を確認する間もなく情報が拡散されたことから、周辺地域は大混乱に陥ったのです。
    この事件では、フェイクニュースを投稿した20代の男が警察に逮捕されています。
    警察の調べに対し、逮捕された男は「悪ふざけでやってしまった」と語ったそうです。

2、フェイクニュースを拡散することで問われる可能性がある罪

フェイクニュースを拡散した場合、とくに悪質な意図があったわけではなくても犯罪が成立し、厳しく責任を追及されてしまう可能性があります。

以下では、フェイクニュースの拡散によって問われる可能性がある犯罪を解説します。

  1. (1)名誉毀損(きそん)罪

    他人の名誉を毀損する内容のフェイクニュースを拡散させると、刑法第230条の名誉毀損(きそん)罪に問われる可能性があります。

    名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示(てきし)して人の名誉を毀損した者」を罰するための法律です。
    「公然と」とは、不特定または多数の人が知りうる状態を指しており、実際に多くの人に伝わったかどうかは問題になりません。
    SNSなどによる拡散は情報が多くのユーザーの目に触れるため、公然性があると考えられます。
    「事実を摘示」とは、具体的な事がらを示すという意味で、内容が真実であるかどうかは無関係です。
    「名誉」とは社会的な評価を指します。
    個人の名誉心や自尊心などではなく、あくまでも社会的な評価が毀損される可能性があるかどうかで判断されます。

    たとえば「芸能人の〇〇は、実は前科がある」といった情報を拡散した場合、それがでたらめなフェイクニュースであっても、あるいは真実であったとしても、いずれにせよ名誉毀損罪が成立する可能性があるのです。
    名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

  2. (2)信用毀損(きそん)罪

    うそやでたらめな情報を拡散させることで他人の信用を毀損すると、刑法第233条の信用毀損(きそん)罪が成立します。

    信用毀損罪の条文には「虚偽の風説を流布」した者を罰すると明記されており、うそやでたらめな情報を拡散させる行為はまさにこれにあたる行為です。
    なお、ここでいう「信用」とは、一般的な信頼を指すのではなく、経済的な側面における人の評価を意味します
    具体的には、支払能力や支払意思に対する社会的・経済的な信頼、あるいは販売される商品の品質に対する社会的信頼と解釈されています。

    たとえば「A社は倒産寸前だ」といったフェイクニュースが拡散されると、ターゲットになったA社は取引先などから経営状態の悪化を疑われてしまう可能性があります。
    すると、A社は取引を停止する会社が相次いだり、銀行からの融資が止まってしまったりといった経済的なダメージを負う事態に陥るため、信用毀損にあたる行為は厳しく罰せられます。

    信用毀損罪の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

  3. (3)偽計業務妨害罪

    虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりして他人の業務を妨害すると、刑法第233条の偽計業務妨害罪に問われる可能性があります
    「偽計」とは、人を欺いたり、誘惑したり、他人の無知や錯誤を利用したりするという意味であり、フェイクニュースの拡散も偽計となる行為のひとつです。
    「業務」とは、人が社会生活上の地位にもとづき反復・継続して従事する事務のことをいい、これを妨害する行為が処罰の対象になります。
    また、実際に妨害された事実は要しないため、妨害される可能性があった時点で、本罪の処罰対象となります

    前述した「動物園からライオンが逃げた」というフェイクニュースについては、情報が拡散された結果、動物園に問い合わせが殺到して正常な業務が妨害されたため、偽計業務妨害罪が適用されました。

    本罪の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

3、警察から連絡がきた! その後はどうなる?

フェイクニュースを拡散させて社会に混乱を招いてしまうと、警察の捜査対象になってしまう可能性があります。
以下では、警察から連絡がきた場合の、刑事手続きの流れを解説します。

  1. (1)かならず逮捕されるわけではない|在宅事件と身柄事件

    刑事事件を起こしても、かならず逮捕されるわけではありません。
    捜査には「在宅事件」と「身柄事件」という二種類の手法が存在します。

    在宅事件とは、容疑者を逮捕せず任意の方法で取り調べなどの捜査を進める手法です。
    また、身柄事件とは、容疑者を逮捕して強制的に捜査を進める手法を指します。

    令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に全国の検察庁で処理された刑事事件のうち、身柄事件の割合は34.1%でした。
    つまり、残る約65%は逮捕されず在宅事件として処理されたのです。

  2. (2)警察が捜査して検察官が起訴・不起訴を判断する

    在宅事件・身柄事件のどちらが選択されても、まずは警察が取り調べなどの捜査を進めたうえで、検察官へと事件を引き継ぎます。
    この手続きを送致といいますが、ニュースなどでは在宅事件での送致を「書類送検」、身柄事件での送致を「送検」と呼んで報道しています。

    送致を受理した検察官は、みずからも捜査を進めたうえで「起訴」または「不起訴」を判断します
    起訴とは刑事裁判を起こすこと、不起訴とは起訴を見送るという処分です。

  3. (3)刑事裁判で有罪になると刑罰を科せられる

    検察官が起訴すると、容疑をかけられている人の立場は「被告人」になり、刑事裁判を受けます。
    刑事裁判では、裁判官が証拠を取り調べて有罪か無罪かを判断します。

    有罪判決となった場合には、法律が定める範囲で適切とされる刑罰が言い渡されて、期限内に不服申立てがなければ刑が確定します。

  4. (4)被害者から損害賠償請求を受けることもある

    捜査を受けたり刑罰が科せられたりするのは、刑事的な責任の部分です。
    フェイクニュースを拡散したことで被害者に与えた損害は、民事的な責任として刑事責任とは別に追及されます
    また、民事責任は、たとえ被害者が警察に被害届や刑事告訴をしなくても追及される可能性があります。

    フェイクニュースの被害者が裁判所の「発信者情報開示請求」の手続きをおこなうと、「どこに住んでいる誰がフェイクニュースを発信したのか」が判明する可能性があります。
    つまり、「匿名だからどうせバレることはない」などという考えは通じないのです。

    フェイクニュースの発信者として特定されると、発生した損害の賠償を求められるおそれがあります。
    大きな損害を発生させていれば賠償額も多額になってしまうので、被害者が強硬な姿勢を示す前に、積極的に解決を図ることが大切です。

4、フェイクニュースを拡散してしまった場合は弁護士に相談を

フェイクニュースを拡散させてしまった場合は、刑事責任・民事責任の両方を追及されるおそれがあります。
多大な不利益を避けるためには、速やかに弁護士に相談することが不可欠です。

  1. (1)被害者との示談交渉を依頼できる

    フェイクニュースに関するトラブルを穏便に解決させるためには、被害者との示談交渉を図るのが最善策となります。

    被害者との話し合いの場を設けて真摯(しんし)に謝罪したうえで、実際に生じた損害の賠償金や精神的苦痛への慰謝料を含めた示談金を支払うことで、刑事責任を追及しないように交渉しましょう。
    示談そのものは民事的な賠償責任を尽くすものであるものの、刑事責任に影響を及ぼす可能性が多いにあります。
    示談成立によって被害届の取り下げや刑事告訴の取り消しが実現すれば「加害者を罰してほしいという意思がなくなった」という評価につながり、捜査の終結や不起訴といった加害者にとって有利な処分が得られやすくなります。

    ただし、被害者との示談交渉は簡単ではありません。
    フェイクニュースによって大きな混乱が生じた場合は「刑事・民事の両面で厳しく対処する」といった姿勢を示す企業や団体も多く、加害者個人による交渉は困難になるため、専門家である弁護士に任せる必要が生じます

  2. (2)処分の軽減に向けた弁護活動を依頼できる

    フェイクニュースを拡散させる行為は、法律に照らすと犯罪になります。
    状況に応じて名誉毀損罪・信用毀損罪・偽計業務妨害罪といった罪を問われることになりますが、かならず厳しい刑罰を受けるとは限りません。
    たとえば、検察官の段階で不起訴になれば刑事裁判が開かれないため、刑罰を受けることはありません。
    また、刑事裁判に発展したとしても、被告人にとって有利な事情があれば刑罰が軽くなる可能性があるのです。

    不起訴を目指したい場合や、軽い刑罰で済ませたいと希望される場合には、弁護士に依頼してください
    弁護士であれば、法律的な知識と経験に基づきながら、「被害者との示談交渉によって謝罪と弁済を尽くす」「深い反省を示す」「家族などによる監督を強化して再犯防止を誓う」などの対策を整えて捜査機関や裁判官にはたらきかけることができます。

5、まとめ

フェイクニュースを拡散させる行為は犯罪です。
面白半分のいたずらであっても警察に逮捕されたり刑罰を科せられたりした事例も存在するので、うそや不正確な情報を発信することは控えることが最善です。

もしフェイクニュースを拡散させてしまった場合は、問題が大きくなるよりも前に積極的な解決を図ることが大切です。
すでに警察から連絡を受けて捜査の対象になっている方や、まだ捜査の対象にはなっていなくてもフェイクニュースを拡散させてしまったという自覚がある方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
刑事責任と民事責任の両方について、重大な不利益を受けることを回避しながら事態を穏便に解決するために、法律の知識と経験を豊富に持つ弁護士がサポートいたします。

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